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音楽、IT、サブカル、アイドル、その他思いつくまま好きなものだけ共有したい、ルサンチマンの雑記です。

30歳。サラリーマン。ある日突然女子高生の妻をめとった話。Vol.1

 


事実は小説より奇なり

 

無責任にも詩人バイロンがそう言い放ってから何年たったのかは知らない。

しかしその言葉に僕らはほんの少しの希望を抱きながら、さして昨日と変わらない自己流にアルゴリズム化された毎日を今日もまた送っている。

振り返ってみても小説より数奇な事実なんて何一つ無い。バイロンはやはり無責任だ。

だだ、言い換えれば、小説より奇なる事実なんてものはないけれども、日常の歯車にたった一つ、イレギュラーな歯車が小さな音を立ててはまり込む事によって、その日常があらぬ方向に動き出すこともある。

 

結論から言うと、30歳の時に、僕には女子高校に通う16歳の妻が居た。そしてこれは小説ではなくて事実であり自伝でもある。

 

そしてこれも言っておくと、恐らくいくつかに分けられ、投稿されるであろう僕の日記を最後まで読んでくれたとしても、おおよそ期待されるようなロマンティックな事は起こらない。小説よりもナンセンスであり、映画よりもドラマチックではない。奇なる事実なんてものはないのだから。

 

第一章:濫觴

 

 

アメリカへの無駄な留学後、僕は雑貨を輸入する仕事についていた。店舗もあった。元来人間好きである素性なため、店舗を通して知り合いも増えた折り、とある中学生の男の子が暇さえあれば店舗に足を運んでいることに気がついた。

名前を「まこと」と言った。長身で整った顔立ちのなかなかの美少年だった。片親らしかった。家が厳しいこともあり、逃げるように行き場を探してたどり着いたのだ。

酒、風俗、ギャンブルにまったく興味がなく、子供っぽい遊びにむしろ夢中になれた当時の僕は、彼とすぐに意気投合できた。

 

僕の仕事が終わるのを待つまことと、二人乗りの自転車で帰路につく毎日だった。コンビニでお菓子を仕入れては、僕の自宅で門限ぎりぎりまでプレステで真剣勝負した。

服をしょっちゅう交換した。場合によっては靴まで交換して履いた。彼なりの目線で僕をかっこよくしてくれたし、僕なりの目線で彼をかっこよくしてあげた。二人で買い物に出かけ、服を取り合いになることもあった。その時は二着買った。

休みの日には回る洗濯物を眺めながら、コインランドリーでいろいろな話をした。世代も内容も違うが、悩みも打ち明けた。お互いそれで解決出来るとは思っても居なかった。ただ、真剣に聴いてくれる相手がいる、それだけのことが大きかった。やめとけと注意しながらも、乾燥機の中に入って「100円入れろ!」と叫ぶまことが結果的にぐるぐる回る姿を見て大笑いしたりもした。

 

友達であり、理解者であり、ライバルであり、弟であったまことが高校生の歳になると、色気づき始めたことに気がついた。僕の家に女の子を連れてくるようになった。

僕の住む中野という少々荒れた土地柄の高校に通う3人の女子高生たちは、当時流行だった極限までカットしたミニ・スカートにルーズソックスという出で立ちのいわゆるギャルの子たちだったが、僕は全く興味がなかったし、彼女らも恐らく僕には興味がなかった。事実、僕らの間には話し相手以上の事象は何もなかったし、まことと違い、僕には彼女らが、ただの子供以上にはどうしても見れなかった。

 

彼女らにとっても、ただ、学校の近くに都合の良いたまり場がある、といった体であったろうし、僕もそれを感じていたし、さて、まことたちにどこまで許してあげようかと多少悩んだものの、彼女らには9時には家に帰ることと、親には僕の家に居ることを必ず連絡することを条件として許してあげた。今の時代であるならば、それでも絶対に断っていたとは思う条件ではあるが。

 

ちゃんと親に連絡してるか?との問に「だいじょうぶ!」しか答えない彼女らに、いささか疑問を感じて目の前で電話させることもあった。

「むーさんちにいるよ、10時までには帰るね、じゃあね」と、ほらね、と言った顔つきで電話を切る彼女らに、なんという緩さだろうと呆れた僕だが、それ以上僕が厳しく接しなければならない義理もないだろうとも思った。

余談ではあるが、むーさんとは僕のことだ。姪っ子が幼い頃に僕を呼んでいた呼び方がそのまま僕のあだ名になっていた。余計なことを言うもんじゃないなと後悔したが遅かった。

 

そんな日々が数ヶ月続いた頃には、まこと自身があまり来なくなっていた。同世代と無茶な悪さをするのに夢中になっていた。親でない以上、あまり無理するなよ、としか言えなかったし、寂しくもあったが、一人の時間が長すぎて妙に大人びた考えだった彼には喜ばしい事かもしれないと諦めをつけた。

 

平和な日々が続いたそんな折、ある日突然まことが一人の女の子を連れて家に来た。

ひとみ、と名乗ったその女の子は例の3人のギャルとは全く違い、制服を正しく着こなした、清楚そのものの出で立ちで、おおきな瞳をきょろきょろさせては、影のある笑顔で受け答えをする、少し事情がありそうな女の子だった。まことと同じ中学出身だった。

 

家に居づらい、居たくない。そんな思春期にありがちな悩みはそのまま、突っぱねようと思ったし、まことに我が家を駆け込み寺かなんかだと勘違いさせたままも良くなかったのだけれども、知り合った以上、話くらいは聞いてあげようと思った。

 

彼女の事情は僕が想像するよりも深刻なものだった。

 

当然その時の僕はまさか彼女がある日突然、書類上の「妻」になるとは思ってもいなかった。イレギュラーな歯車が小さな音を立ててはまり込み、僕の日常があらぬ方向に回りだそうとしていた。

 

 

つづく

30歳。サラリーマン。ある日突然女子高生の妻をめとった話。Vol.2 - Life SUCKS but It's FUN