Life SUCKS but It's FUN

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30歳。サラリーマン。ある日突然女子高生の妻をめとった話。Vol.3

30歳。サラリーマン。ある日突然女子高生の妻をめとった話。Vol.2 - Life SUCKS but It's FUN

第三章:月に叢雲

我々、人間だけが持つ特徴の一つに「社会性」というものがある。その社会性を盾にして時に人は他人との関係に形を求める。家族や社会といった組織の中で、友人、同僚、恋人、夫婦、親子、を求め、不安定だった関係に安定を望む。
そうして、やんわりとした他人への期待を権利へと変換し、時にはそこに義務まで求めることもある。

僕はひとみが好きだ。可愛くて仕方のないときもあれば、愛おしくてたまらないこともあった。けれども僕は、ひとみを一人の女性としては見てはいなかったし、ひとみも多分同じであった。
親子とも、兄妹とも、恋人とも呼べない僕らの関係は、しかし、それでいて安定していたのだ。
僕はひとみに今以上を求めてはいなかったし、ひとみもそれ以上を何も求めては来なかった。

けれども僕とひとみは、そんな柔らかくもメロウな世界でたった二人きりで生きている訳ではなかったのだ。僕らかいかに安定していようとも、おおよそ世間からはまともに見えない関係性に、最低限の説明責任はあったのだ。


僕はひとみに父親にあって話したい由をメールで伝えた。その日の仕事帰り、ひとみと会った。
彼女は手にしていた携帯を僕に渡すと、
「おかあさん」と俯いたまま一言だけつぶやいた。


「もしもし?むーさん!はじめましてー!」
驚くほど明るい声にほんの少し拍子抜けしたが、僕は事の経緯を矢継ぎ早に説明しようとした。
しかし、それは僕と5歳しか変わらない、いわばひとみよりも同級生世代である彼女の母親の声によって遮られた。

「いいのよ!どうせひとみが嘘言ってむーさんちに遊び行ってたんでしょ?」
僕は否定も肯定も出来なかったので、返事はせずに父親と話したい事を伝えた。
「お父さんね、会っちゃったら多分ぶん殴っちゃうから俺はいい、ですって。お父さんは私に任せてくれて構わないから三人で会いましょっか?」
僕は翌日に僕の行きつけの台湾料理屋で、と提案した。大丈夫だそうだ。

問題は、ほとんど今の短い電話で解決してしまったのだけれども、とりあえず母親には会って置きたかったので単なる食事会でも約束は有難かった。

ひとみは、なんとも良くわからない反応だったけれども、とりあえず家に送るあいだ、お母さんの人柄を説明してくれた。母親の話をしているひとみは、とても楽しそうだった。
僕はまた明日、と言ってひとみと別れた。

 

「むーさん、お酒は?」と言われ、僕は下戸だと伝えた。
「むーさんのことはなんとなくひとみから聞いているけど。いつから付き合ってるの?」
「ホント、ここ美味しいわね」
独り言なのか、質問なのか。僕が、はいとかいいえとか答える前に勝手に話が進んでいる感じだった。流石に母親である。ひとみのことは多分本人以上に良く理解しているのかも知れなかった。

「いえ、僕ら付き合っているわけじゃ無いんですよ。」
あら?と言う顔を一瞬見せたのだけれど、何かに納得したようだった。
「そう?あとコレも頼んでいい?ここホントに美味しいわね。家で真似してみようかしら?」

ひとみは頻繁ではないものの、本当のお父さんに会いたいと、日頃から僕に言っていた。恐らくそれが現在の彼女の最大の望みであり、その望みを通して僕を透かして見れば、母親にも納得の行く関係に見えたのかもしれない。僕らは純粋に食事の時間を楽しんで別れた。
今日はひとみは母親と帰っていった。


それから。
僕らの関係はあまり以前とは変わらなかったが、僕らの間にほんの少しの変化が訪れた。
ひとみは、朝来なくなった。その代わり彼女はシフトが多めなコンビニのバイトを辞めて、週に3回だけのカラオケ屋のバイトを始めたので、バイトのない日の夕方に会うようになった。ひとみは親公認の印籠を手渡されていたので、例の裏路地の、あの角っこで別れることもなく、僕も堂々と送るようになった。

 

相変わらず我が家をたまり場にしているしほたちには事情を説明した。今後は夕方からひとみが来ることが増えると思うと。バカで下品な彼女らだったけれど、

「そっか、じゃあ鍵は返すね、それから私達はいつでもひとみちゃんと友達になりたいって思ってるからって伝えて」

優しい奴らなのだ。察しも良い。コイツらとはまた会う機会もあるだろう。

 

僕とひとみの平穏な日々が何ヶ月か続いた。カラオケに行ったり、美味しいものを食べたり、ゲームセンターに行ったり、家でゆっくりテレビを観たり。天気の良い日には自転車を二人乗りして抱きつかれることもあったし、天気の悪い日は手をつないでゆっくり歩くこともあった。けれども僕らにはそれ以上のことはなにもなかった。なにも積み重ねることもなく、どこへ向かっていくわけでもないけれども、それでいてその居心地の良さは保たれていたのだ。

今までは早朝にひとみが家に来ることと、バイト帰りに家まで送ることという狭い範囲での付き合いだったので、当初は、仕事帰りに制服姿の女子高生と待ち合わせをすることになんらかの後ろめたさがなかったとも言えなかった。

けれども世間は、僕が想像していたよりも僕らを奇異な目で見てはいないことに気がついた。

それはおそらく義兄妹のように楽しげに会話しはしゃぐ僕らが、その健全さを醸していたからかも知れないし、お互いにそれなりに親しみを持って接している姿が、世間の想像する怪しさからはかけ離れていたからかもしれない。

 

時折、寂しそうなひとみを観ることもあったけれども、それは父親と実の父親に向けた気持ちだと思っていたし、僕にはどうすることも出来ないと思っていた。ひとみの母親とは暇があれば電話をしていた。陽気で前向きな彼女もまた、その部分には腫れ物に触るかのように慎重であった。

 

季節は秋になっていた。ひとみを送る頃には月に紫色の雲が架かる。

ひとみから相談を受けた。試しに薬局へ寄ってみた。陽性だった。

久々にまことに連絡をしてみて明らかになった。

 

ひとみはレイプされていた。

つづく

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