30歳。サラリーマン。ある日突然女子高生の妻をめとった話。Vol.7
30歳。サラリーマン。ある日突然女子高生の妻をめとった話。Vol.6 - Life SUCKS but It's FUN
第七章:色は思案の外
それからの僕とひとみの恋人としての関係について、場合によっては一番興味を持たれる話かもしれないのだけれど、僕は恋愛に酔った勢いで自分の過去を綴っているのではなくむしろ、告解に近い事を行っていると思っているので申し訳ないとは思うが書くことがない。
ただ、これから終幕へと向かう僕らの関係の根幹を成す出来事は、2、3、説明しておく必要はあると思う。
まず、僕と離れている間に、ひとみは学校を辞めていたと言うこと。
それからひとみが急に帰ってきたのは、どうやらしほ達による根回しだったと言うこと。
最後に、まことはもう居ないということ。友人としての関係性の話ではなく、物理的にこの世にもう居ないのである。
結局の所、同世代であるしほ達の方が、ひとみの本当の気持ちを理解していたし、状況的にまことに代わる形で、僕の気持ちにも気づいていたのである。
ひとみが帰ってくる決心をした時点で、彼女たちは何も言わずに去っていったので、細かくはわからない。しほに再会するのはそれから随分たった後のことであったし、恐らく聞いてもとぼけるのであろう。そういう奴らなのだ。
当時の彼女たちの世代は、どこへ出かけるのも制服だった。制服が彼女らを一番可愛らしく魅せる事を理解していたし、なによりもお金のかからないファッションだったからだと思う。ひとみも例外ではなかった。僕のクローゼットから、しほのセーラー服をひっぱりだして、しほちゃんに借りて良いか聞いて?とせがまれて、一度だけしほと電話で話した記憶がある。
「ああ!むーちゃんちにあったのか!」
あったのか、じゃねーよ。お前ジャージ貸してって着替えて置きっぱなしだぞ。ジャージ返せよ、との僕の返事にゲラゲラ笑いながら
「いいよ!じゃあね」
と言って電話を切られた。どちらの「いいよ」なのかもわからなかったが、結局僕のジャージは返ってこなかったので、ひとみに対してなのだろう。それ以来しほのお下がりのセーラーは、中学も高校もブレザーだったひとみの、お気に入りの普段着となった。
ここからは思い出すだけでも胸が苦しいのだが、しかし僕らの本来あるべき姿へと回帰するためのエピローグへ向けて、包み隠さず話しておきたい。
ひとみは近所でバイトしながらも、歌手になりたいという夢を捨てきれてはいなかった。ある日、「子役募集」という芸能事務所の大手新聞広告の切れ端を持ってきて、応募していいか訪ねてきた。今でも耳にする事務所であったし、そういった世界にそう簡単にチャンスが転がっているわけでもないだろうと思っていた僕は、安易に、やってみれば?と返事をした。
何枚かの写真と簡単な経歴を送った結果は意外なものだった。ひとみが嬉しそうに見せてくれた返信の封筒の中には、即採用、二次審査不要、レッスン料免除、とあった。ひとみは、確かに可愛らしい女の子ではあったと思うが、俯瞰で観た場合ずば抜けて即戦力になる程ではないと思っていた。が、大手企業の大手新聞広告に、さほど疑問は持たず、その結果を僕とひとみは「運」の為せる業だと信じて喜んだ。
当時の僕らの生活は、僕とひとみが仕事帰りに待ち合わせをして、夕飯の食材の買い物をし、夜になると、えらくひとみを気に入っていた近所の美容師の女の子とその彼が家にあそびに来る、という平凡で楽しいものだった。ひとみも自分をかわいがってくれる姉と、兄が、同時に出来たようで大層喜んでいた。
ひとみも彼らにお返しがしたかったのであろう。四人で食事やカラオケに出かけるたびに、僕らの制止を遮って、徐々に自らお金を出すようになった。だが、やがてそれは、ひとみのバイト代で賄える金額を超えていることに、僕は気づいてしまった。
僕は彼女を問いただした。
想像するだけでもまるで、悪夢のような現実がそこにはあった。
つづく
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