「ラピュタ」の謎
ジブリ作品の「ラピュタ」の元ネタが、
1726年、ジョナサン・スウィフト作「ガリバー旅行記」の第三部に出てくる
「ラピュータ(Laputa)」であるというのは有名な話。
で、このLaputa、スペイン語系をかじった人なら常識かと思いますが
「売春婦」と言う意味で、英語にすると、「The Bitch」(笑)
なので、ラピュタの海外版は「Castle in the Sky」に改名されているのもファンならご存知ですね。
ま、宮崎駿監督は意味知らなかったらしいですけど。
何故にジョナサン・スウィフトは、ガリバー旅行記の中で、
空飛ぶ浮島に、ビッチなんてひどい名前をつけたのでしょうか?
みなさん一度は目にしたことのあるガリバー旅行記、
実はこれ、全然ファンタジー作品なんかではなくて、
イギリスの政治体系を痛烈に批判する「政治論の本」なんです。
このガリバー旅行記、当時のイギリスはまだまだ封建的で、
直接、女王や政府を批判するなどもってのほかなので
主人公レミュエルガリバーが様々な不思議な国を訪問した際に
他文化からイギリスと言う国、女王、政治家、軍隊が批判されてしまう、
という逆批判の形を取ることで誤魔化してなんとか出版に至った本なのです。
なのでこの本には至る所に皮肉が書かれていて、「売春婦」というふざけたネーミングも
その一つなのでしょう。
さて。
ここからがラピュータを謎の島たらしめた「謎」の部分の本題です。
ガリバー旅行記の第三部、ラピュータの科学者がとんでもない事を言い残しています。
「火星には2つの月があり、一つは火星の中心から火星の直径の三倍のところにあり~~
もう一つは同じく五倍のところにあり・・・」
冒頭にも書きましたが、ガリバー旅行記が書かれたのは1726年、
しかしながら実際に火星の2つの衛星がアサフ・ホールによって「発見」されたのは
実に、150年以上も後の1877年。
ここからジョナサン・スウィフトは世紀をまたいで再び脚光を浴びることになります。
スウィフトは預言者なのではないか?
いや、ラピュータは実在するのではないか?
あくまで僕の予想ですが、この推測が独り歩きをして
「ラピュタ=空飛ぶ未知文明都市」
の様な都市伝説が広まって現在に至るのではないだろうかと思うのです。
まぁ、夢はありますよね。
ただ、種をあかすと
この、「火星の衛星は2つ」と最初に言い出したのはジョナサン・スウィフトではなくて、
あの、ケプラーの法則で有名なヨハネス・ケプラー(1571- 1630)なんです。
木製の衛星が4つまで発見されていた当時、ケプラーは、
「金星には0個、地球には1つ、木星に4つなら、火星には2つ衛星があるに違いない!」
という、身も蓋もない「等比級数的」理論を展開していたのですが、
わりと当時の知識人の間では常識になっていたそうで、
科学にも明るいジョナサン・スウィフトがこのケプラーの説を知っていたのは
ほぼ間違いないと思われます。
・・・・なので、ラピュータを有名にしたジョナサン・スウィフトの予言は
実は世間で言われているような神秘的なものでも伝説的なものでもなくて
ヨハネス・ケプラーのヘンテコな理屈が原因だったわけです。
あ、ひとつケプラーの名誉の為に言っておきますけど
ケプラーの第三法則は今でも使われるほど正確な法則だし
そもそも「Satellite=衛星」という言葉を作ったのはこの人です。
あ、それからもひとつ、ジョナサン・スウィフトの名誉の為に言っておきますけど
火星にある衛星、フォボスとダイモスの、ダイモスにある巨大クレーターには
ラピュータの科学者をたたえ、「スウィフト」という名前が付けられています。