Life SUCKS but It's FUN

音楽、IT、サブカル、アイドル、その他思いつくまま好きなものだけ共有したい、ルサンチマンの雑記です。

いるか、いるか、いるかいないか 。

数年前の日曜日。

僕は急に駄菓子を大人買いしたくなって、近所のおもちゃ屋さんに向かうことにした。

そういえば自転車は盗まれたんだっけ。

スケボーをコロコロ、コロコロ、転がしてたどり着いてみたら、

思ったよりも種類は少なかったので、あっという間に買い物は済んでしまった。

子供がジィーっと観てるから、駄菓子のせいだと信じてた僕に意外な一言

「いいなぁー・・・スケボー・・・・」

そうだった、子供は遊び優先。

遊びがなくなって手持ち無沙汰さにお菓子をほおばる。

お菓子も遊びの延長線上。

 

いいよ。使っても。その代わり自転車貸して?


先頭をおぼつかなく滑る彼の後ろを僕は、

ちっこいヘルメットをかぶって、ちっこい自転車をこいでいて、

その後ろを、つぎ俺!つぎ俺!と叫ぶ子供が続いて、一つの列が出来ていた。

 

全部で七人。

女の子は二人。

小学校一年生と二年生。

温かい日だったから電柱の下に座って、これは自転車のお礼、と、

みんなで駄菓子を食べることにした。


今日は宿題ない日なの?


「いるか!! たにかわしゅんたろう!!!」


え?なに?それだれ?


「宿題で覚えるの。たにかわしゅんたろうもおぼえるところなの」


作者かな。へー。教えてよ!


「いるかいるか いるかいないか

 いないかいるか  いないかいるか

 いないいないいるか  いるいるいるか

 いつならいるか ・・・・・」

すごい。全員ちゃんと覚えてる。

 

それから僕が、だれが食いしん坊だとか

だれがイタズラしたとか、だれを泣かせたとか

いろんな話を聞かせてもらったころには、

電柱も、道路も、コンクリの壁も、

オレンジ色に染まりだしてたから、帰るねって告げた

「オレんちおいでよ!」


いや。。。ありがとう、でもお母さんとかいるでしょ?


「オレの友達っていうから平気!」

子供のこう言う感性にびっくりすると同時にまた

僕は彼の友達の一人と認めてもらえたことに、少し嬉しさを感じていた。

背とか、見た目とか、あまり関係ないのだろう。

僕は「残念だけど・・・」帰ることにした。

 

次の日の、つまり僕が大人の社会に揉まれる週の最初の夜。

僕はスーツ姿で原宿にある広告代理店のオフィスに居た。

以前に依頼した、些細な翻訳の仕事のお礼がしたいと、

その広告代理店の社長が食事に誘ってくれたので、

自分の仕事を早々に切り上げて。

食事の最中もわかっていた。

何か別の依頼があるんだろうな、と。

でも社長は世間話以外なにも切り出さずに、場所を移そう、

と、彼の経営する会員制のバーに僕を連れていった。

 

少し酔いが回った頃に、

「二階を見て欲しい」

と言われて、彼に付いて、僕は外にある階段をあがった。

 


そこはまた別のバー。


詩人の血、ジャン・コクトーですよね?


「知ってるよね、そういうのも見込んで一つ、お願いがあるんだよ。」

やっぱり来た。わかっていたのだけれども。

「このバーをスペイン風にしたいんだ。」

「だからスペインから直で雑貨を入れられないかな?教会風の。」

 

僕は・・・英語少しわかる程度で、スペインは・・・。


嘘だった。半分は、嘘だった。

自信が無いわけじゃない。

でも苦手なんだ、僕は。

こういう気取った雰囲気も。

誰かの気まぐれに付き合うのも。

 

目を合わせられなかったから、

僕はカウンターの上をぼーっと見ていた。

見ていたらそこには、

優しそうな

そしてこの洒落たお店には、おおよそ不釣り合いな

初老の男性の写真が飾ってあった。

 

この方は?


「ああ、ここはね、君も気付いたとおり、詩人が集まるバーなんだ。」


「このお店のお客さん。谷川俊太郎さん。知ってるかな?」


いるかいるか いるかいないか・・・・
いないかいるか・・・・


初めて僕はここに来て、微笑んだ。

作り笑いでなくて、心から微笑んだ。

 


ええ、とてもよく知っていますよ。僕の友達が。

やらせてください。スペインへの発注。僕に。

 

おわり